この解説の要旨
◎ ゆっくり走る、ゆらゆらとしたランニングは便秘に効果があります。ウォーキングの人に抜かれるくらいのスピードでかまいません。
◎ 走ることにより、重力を使って下へ下へ(腸から肛門へと)と便を移動させる効果があります。
◎ ランニングでは左右に足を踏みかえることで、左右に腸が揺らされ、便が移動しやすくなります。
◎ ゆっくり、リラックスして運動することにより、副交感神経が刺激され、腸が活発に動き出します。
◎ とにかく、服装や時間や場所は気にせず、疲れない程度で始めましょう。
【目次】
- 1.ゆっくり、とにかくゆっくり
- 2.でもランニングをキープ
- 3.とりあえず服装は気にしない
- 4.肩に重力を感じたらいい感じ
- 5.根性は禁物
- 6.ガスが出るならいい感じ
- 7.オレンジを事前に食べるといいかも
- 8.おわりに
便秘に困っている方って、本当にたくさんいらっしゃいます。
当院の問診表には、スポーツ習慣について書いていただく欄があります。
残念なことですが、便秘に悩んでいる方の多くは運動習慣がありません。
運動習慣がない方にいきなり「走れ!」というのは無理なこととお思いでしょう。
ランニングってキツいもの。そう思っていませんか?
街を歩いていると、走り過ぎるジョギングの人を目にすると思います。
結構、速いですよね。
でも、別に彼らの真似をしなくてもいいのです。
いや、この場合、真似をしてはいけません。
便秘解消のための、がんばらない、できるだけゆっくりのランニングを勧めます。
普通のランニングとは違います。競争心は不要ですし、この場合は有害でさえあります。
「腸を動かす、ゆらゆらランニング」は、院長前田が、「スロージョギング🄬」(田中暁宏博士考案)を自ら実践する中で、便秘への治療効果を実感したため、これに改良を加え、紹介するものです。興味のある方は是非協会ホームページもご参照ください。
ゆっくりといえども、ランニングは歩行に比べて、膝や腰への負担が大きくなります。痛みや疾患を抱える方にお勧めするものではありません。
1.ゆっくり、とにかくゆっくり
自分に最適なスピードを探すのが一番大事です。
スピードは3~5キロくらい。3キロだと普通に歩いている人に抜かれます。ゆっくり過ぎてランニングを維持するのが難しいくらいです。私は5.6~5.8キロ/毎時。競歩の方に簡単に抜かれるスピードです。
最初は、ウォーキングの人に抜かれるくらいが最適です。
実際のスピードは、スポーツクラブにあるランニングマシーン(トレッドミル)で体験してみるとよいでしょう。
トイレも近いので、便秘に対する効果をみるのにうってつけです。
ランニングの頻度は、週3回から4回を目安にしましょう。
持続時間は最初は1分でもかまいません。15分くらいできるととても効果的です。
2.でもランニングをキープ
ランニングとは、一瞬でも両足が地面から離れていることをいいます。どちらかが着地しているとそれは歩行、歩きです。
両足が一瞬でも地面を離れると着地する足に大きな重力がもたらされます。
この重力が腹部へ伝わります。
重力を使って、便が胃から肛門まで移動するのを助けましょう。
踵落とし(かかとおとし)という運動があります。ふくらはぎの運動の一つです。
かかとを上げて、また下すという、高齢者の筋力維持に有効な運動です。私の患者さんに、この踵落としをするとよく便意が起こりやすいという方がいます。
これも重力を使った便の移動の一つだと思います。
ランニングは左右の足が交互に着地することも重要な要素です。
左右に体重移動することで、腹部を、腸を、左右にゆすることになり、便の移動を助けます。
大腸はひだがあり、便を転がし、固形にしていく働きをもっています。またところどころにヘアピン状の曲がり角があり、便が滞留しやすくなっています。
ランニングによって腸がゆすられることで、この便が滞留したり、引っ掛かるのが軽減されます。
便が移動しやすくなる、ゆらゆらランニングは、便が残る感じに悩まされている方にはとても効果的です。
この場合、直腸、肛門近くにおりてきているのにもかかわらず、あと一歩で出ないという状態です。
このあと一歩を、ランニングによる重力で押し出すのが、ゆらゆらランニングです。
3.服装は気にしない
靴はハイヒール以外、何でもOK。服装も自由です。
ゆらゆらランニングは、汗をかくほどやる必要はありません。
服装をランニングに見合う準備をしたり、準備体操をしたり、このような複雑な手続きがあなたをランニングから遠ざけています。
思い立った時に始めましょう。腸を動かす、ゆらゆらランニングは、それほど強い強度の運動ではありません。
4.肩に重力を感じたらいい感じ
上半身の力が抜けるとこれができてきます。
ランニングを効率的に行っていくためには、体幹の力が重要です。マラソンランナーはランニングの最中に体幹がぶれないように訓練しています
腸をうごかすゆらゆらランニングでは、逆です。体幹の力をできる限る抜くことが必要です。
その指標として、ランニングの時に、肩に重みを感じるかを目安にしてください。
5.根性は禁物
疲れたら休みましょう。
根性は禁物です。
頑張る気持ちは、交感神経を優位にします。
交感神経は、腸を動かす副交感神経と逆の働きをします。
腸の動きを止めて、排便を止めます。
これにより便秘は悪化します。
私はマラソンが趣味です。汚い話で恐縮ですが、やっと抽選で当たった神戸マラソンでの出来事です。緊張のスタートの後、コース上で便意を催しました。
トイレに駆け込むと、カチカチとした、ウサギの糞のようなコロコロとした大便でした。
本番のマラソンで緊張しているからでしょう。このような便は、ストレスで起こる、便秘型過敏性腸症候群の患者さんでよくみられる便です。
また、「あと少しがんばろう」は、運動負荷を増大させます。強すぎる運動負荷は長続きしない原因となります。
6.ガスが出るならいい感じ
左右前後に腸がゆすられ、副交感神経が働いて、腸が元気よく動き出しているサインです。
最初からすぐに排便はないかもしれません。でも、ガスが出たら、いいサインです。
ガスは糞便よりも容易に腸内を移動するからです。しばらく続けてみてください。
7.オレンジを事前に食べるといいかも
事前に腸が動きやすくなる食べ物を摂っておくとさらに効果的です。
どんなサプリメントでも良いかと思いますが、代表的なものとしては、オレンジなどの柑橘系や乳製品などです。
でも途中で便意を感じて、困るかもしれません。
8.おわりに
ゆっくり、リラックスして走ることで、お腹は活発になります。ぜひ、あせらず、少しずつ取り組んでみてください。