親が大腸がん!遺伝する?
現在、日本人2人に1人ががんに罹患します。
家族や近親者にがん患者がいると、「自分も将来、がんになるのではないか」と心配になりますよね。
「自分のところは癌家系だから」なんて言葉もよく耳にします。
確かにいろいろな癌で遺伝の影響が発見されています。
乳癌は有名です。女優のアンジェリーナ・ジョリーが乳がん予防のために両方の乳房を切除したのが有名ですね。
大腸がんについてはどうでしょうか?
実は、あります。
この解説でわかることは以下の通りです。
- 1
- 大腸がんは遺伝するのか?するとしたらその頻度はどのくらいか?
- 2
- どんなひとが気を付けるべきか?
- 3
- もし気になるなら、相談できる医療機関はあるか?
について説明したいと思います。
まず結論から述べておきます。
大腸がんの遺伝はどのくらいあるか?
国立がん研究センターの統計データをお示しします。
遺伝子との関連がはっきりした大腸癌は、大腸癌全体の5%あるそうです。
また遺伝子との関連ははっきりしないものの、家族親戚にたくさんの大腸がんが発生するパターンが、25%あるそうです。
合計して30%です。意外と頻度が高いといえます。
そういう事実からすると、家族に大腸癌がいたという事実は、聞き捨てならないことですね。
次に代表的な遺伝性大腸癌を説明します。
どんなひとが気を付けるべきか?(代表的な遺伝性大腸癌)
家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう:FAP)
この病気は大腸がん全体の1%未満と、稀な病気ですが、放置すると60代までにほぼ100%大腸癌になります。
ご家族に、ご本人にたくさんの大腸ポリープがあった方は要注意です。典型的な家族性大腸腺腫症では大腸に100個以上のポリープができます。
私はがんセンターに勤務していたころ、実際に患者さんの内視鏡を担当したことがあります。
私の印象では、それこそ無数の大腸ポリープで大腸が埋め尽くされている感じでした。
正常な大腸は以下のようですが、
家族性大腸腺腫症ではこんな感じです。無数のポリープに埋め尽くされています。左の青い色はコントラストをつけるための色素液によるものです。
遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2020年版より
家族性大腸腺腫症は、子供に50%の確率で遺伝します。
治療は、全大腸を切除することです。かなり過激な治療となります。アンジェリーナ・ジョリーが両側の乳房を切除したのと同じです。がんのもととなる臓器を全部切除する訳です。
ただ現在では、家族性大腸腺腫症であったとしても、その平均寿命は、健康な日本人の平均寿命とほぼ同じになっています。
しっかりとした対策と検査を受ければ、恐れるに足りない病気になっています。
親に大腸ポリープがものすごくたくさんあったときには、注意が必要です。
リンチ症候群
国民370人に1人発症するとのデータもあります。遺伝病としては頻度が高い病気です。大腸がん全体の4%との報告もあります。
性別に関係なく、子供に50%の確率で遺伝します。
普通の大腸がんは、平均60歳で発症します。年齢を重ねるにつれて発症しやすくなります。
リンチ症候群では、それより若い年齢で大腸がんを発症します。平均で45歳と報告されています。
さらに同時に、または短期間に、いろいろな部位に、たくさんの大腸がんが発生したりします。
リンチ症候群が引き起こす癌は、大腸がんだけではありません。
子宮、卵巣、胃などの臓器で癌の発生率が上がります。リンチ症候群と診断されたら、このような癌の検査も行う必要があります。
ただ、リンチ症候群の患者さんは、先ほどの家族性大腸腺腫症とは違って、かならず大腸癌を発症するわけではないようです。
大腸がんの発生頻度は、30~70%と研究報告によりさまざまです。
リンチ症候群からできた大腸癌の治療は、通常の大腸がんと同様です。がんの部位を手術することになります。
手術をして、その経過を大腸内視鏡などで様子を見ることが多いようです。家族性大腸腺腫症のように大腸全部を切除する訳ではありません。
もともと大腸がんは腺腫(せんしゅ)という前癌病変から発生しやすいことが知られています。
この腺腫を除去することが、通常の大腸がんの予防につながります。
リンチ症候群も同様の大腸がん予防が有効であると報告されています。
リンチ症候群の特徴である、若いうちに、たくさんの大腸がんを発症した家族がいる時は注意が必要です。
遺伝に関連する大腸がんを相談するには?
この手の病気の専門家は主に都道府県の「がんセンター」にいます。
兵庫県では、明石市に兵庫県立がんセンターがあります。そこには遺伝外来(遺伝カウンセリング)があります。
担当医は臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍専門医の資格を持っています。
直接受診することはできませんので、まずはお近くの医療機関を受診し、紹介を頼むとよいでしょう。
はっきりしない人はどうしたらよいか?
遺伝が関連している30%の大腸がんのうち、25%程度はどのような遺伝的原因かはっきりしません。
これらは「家族集積性大腸がん」(かぞくしゅうせきせいだいちょうがん)と呼ばれます。
もし家族にたくさん大腸がんを経験した方がいて気になる方は、早めに大腸内視鏡をうけることを考えましょう。