膵のう胞の症例写真と解説
「無害な膵のう胞」の超音波内視鏡画像です。黒い●が膵のう胞です。黒は水を表しています。丸い整った形の膵のう胞は「無害な」印象を持ちます。今のところ「無害」と思われますが、時間経過とともに大きくなってくると、「要注意な膵のう胞」と判明することがあります。
「要注意な膵のう胞」の超音波内視鏡画像です。ひょうたんのような形で、二つののう胞が合わさった形をしています。その大きさと膵管(膵臓の輸送管)とのつながりが、癌になり易さを見分ける指標となります。
この解説のポイント
- 1
- 膵臓癌の原因の一つとして、膵のう胞があります。
- 2
- 健診で見つかることが多く、精密検査を勧められます。
- 3
- もし見つかっても、すぐに「がん」と診断されることはまれで、定期的な検査の対象となることがほとんどです。
- 4
- 粘り強く、定期検査を受けることが、すい臓がんの早期発見につながります。
「膵臓癌の原因ってなんですか?」よく聞かれる質問です。
原因の一つとして、膵のう胞があげられます。
「膵のう胞と言われたけど、膵臓がんと関係あるのですか?」
「膵臓がんにならないためには、膵のう胞を治療した方が良いのですか?」
「すい臓は怖い」
すい臓がんが見つかりにくく、見つかった時には手遅れのことが多いと、よく耳にします。
膵のう胞は、健診で見つかることが多く、「膵臓に異常あり」などと目にすると、とても不安に感じるのも無理はありません。
ただ、「膵のう胞」ってそんなに怖いものなのでしょうか?
結論から言います。
大抵の場合、「そうでもないです」、です。
でも、
「油断してはいけません」、も付け加えておきます。
健診で膵のう胞が見つかると、結果報告書には、「消化器内科を受診してください」などと書いてあります。
要は「精密検査を受けるように」ということなのですが、
「一体、どんな検査を受けるのか?」
「膵のう胞とは重大なものなのか?」
「すぐに治療しないといけないものなのか?」
これらに答える詳しい説明は書いていないので、とても不安になりますよね。
これらの疑問にお答えするのがこの解説文の役目です。
確かに、近年の医学知見の集積により、膵のう胞が膵臓がんと関連していることがわかってきました。それは確かです。
海外の文献では、膵のう胞がある方は膵癌の発生リスクが、膵のう胞のない人に比べて、3倍とあります。
3倍と聞くとやはり不安になりますよね。
数字とは冷酷なものです。
この解説文で、実際のところを把握してください。実際に患者さんにかかわってきた医師の意見です。
膵のう胞にはさまざまなタイプがあり、このさまざまなタイプがみなさんの理解を難しくしています。ここでは大きく分けて、
① 無害な膵のう胞
② 要注意な膵のう胞
に分けて説明したいと思います。この呼び方は医学的ではありません。わかりやすくするためにあえて名付けてみました。
① 無害な膵のう胞
健診の項目である腹部エコーや、何か別の病気の検査が目的で撮影されたCT検査にたまたま映っていたというパターンが多い異常所見です。健診で見つかるくらいですから、そもそも症状がないのが特徴です。本当はいろいろな種類ののう胞がありますが、ここでは、最も頻度の高い、単純性膵のう胞について解説します。
この膵のう胞はがんとは関係ありません。こののう胞は、他の臓器にできるのう胞と同じようなものです。ご存知の方もいると思いますが、のう胞はすい臓以外にも、肝臓や腎臓にできるのがよく知られていますし、また十二指腸や大腸のような消化管にもできることがあります。これらのすい臓以外ののう胞は、一般に体に無害なものです。
ただ、精密検査で「無害な膵のう胞」と診断されても、後に解説する、「要注意な膵のう胞」と、後から、判明することがあります。「要注意な膵のう胞」は大きくならないとわからないこともありますので、定期的な検査が必要です。
膵のう胞があると、保険診療でMRIやCT、超音波内視鏡などの画像診断を受診することができます。あまり深刻にならずに、健康診断の一環と思って、継続的に検査受診を続けてください。
② 要注意な膵のう胞
重ねて言いますが、そんなに深刻になる必要はありません。
すぐに生命にかかわるような深刻な状態は、極めて稀です。
多くの要注意なのう胞は、経過観察だけで終わります。
私たち消化器内科医は、たくさんの「要注意な膵のう胞」の患者さんを診察しますが、そのほとんどが定期的な検査と、「今回も変わりなし。また半年後(1年後)に検査しましょう」で終了します。
そして、その繰り返しです。
何人も「要注意な膵のう胞」の患者さんを担当してきましたが、たいていの「要注意な膵のう胞」では、すい臓がんと診断されることなく終わります。
この「要注意な膵のう胞」も、健診や、その他の病気の検査の目的で撮影したCTや腹部エコーでたまたま写っていたことから見つかることが多いものです。
「たまたま見つかる」
とは、なんら症状がない、「腹痛がない」「背中の痛みがない」状態を意味します。
多くの場合、造影CT(造影剤を注入しながら撮影するCT検査)、MRIや超音波内視鏡検査を行うことが多いです。
もう一度念を押しておきますが、見つかって即手術ということは稀です。
「要注意な膵のう胞」の治療をすることになると、外科手術となります。
膵のう胞の手術では、一般に胃の一部や腸、胆管など大手術となります。手術による副作用(合併症)も考えなければならないため、できるだけ治療(手術)は後回しにすることが多いのです。
要注意なのう胞は進行がゆっくりであること多いのに加えて、がんが疑われるから手術を受けたら、結局は良性だったということも、よくあります。
無害な膵のう胞ほど気楽な病気ではありませんが、気長に検査を定期的に続けることが重要な病気です。
油断してはいけない。でもそんなに深刻な問題でもない。
というのがポイントです。
要注意な膵のう胞のうち、
代表的なものとしては、膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう)です。よくIPMN(アイピーエムエヌ)と略されます。
舌を嚙みそうなややこしい名前ですね。
IPMNはがん化の可能性があることが知られています。
IPMNでは、のう胞のサイズと膵管のサイズ(径)が重要となります。これらが大きいものは手術の対象となります。私の経験上、これらが揃って手術になるケースはそうそうありません。でもあることはあります。確かにがん化と関係していると実感します。
重要なのは、忘れたころに、のう胞が大きくなることがあることです。
また、さらに重要なのは、のう胞とは関係ない部位に膵臓癌ができることがあることです。むしろこちらの方が問題視されています。
毎回の検査は、「変化なし」の連続となりますが、どうぞ気長に、定期的に、継続的な検査受診を続けてください。