内視鏡の症例 大腸鋸歯状病変
大腸鋸歯状病変
大腸内視鏡を受けた後の説明で、こんな説明を受けたことがある人もいると思います。
「このポリープは切除しなくて大丈夫です」
以前は、治療されることがなく、経過観察、すなわち放置してもよいとされていた病変です。しかし、最近の内視鏡研究では、この「切除しなくて大丈夫」なポリープのなかに、放置してはいけないものが含まれていることがわかってきました。
治療が難しいことがある、大腸鋸歯状病変
私が、国立がんセンターで修練医として働いていた頃のことです。指導医である大腸内視鏡専門医と一緒に検査を行っていたところ、右側の大腸(上行結腸)に3‐4mmほどの小さな白く平坦な病変を見つけました。
国立がんセンターはさまざまな大腸がん患者が全国から集まる病院ですが、当時、右側の大腸にできるポリープには要注意との情報が出回っていました。
私は指導医に相談し、この小さなポリープを、この大腸内視鏡検査時に同時に切除することとしました。小さなポリープですので簡単に治療できると思われたのです。しかし、このポリープは硬く粘膜に張り付いていて、治療は難渋を極めました。結局、経験の浅い私では対処できないことがわかり、指導医がそれこそ、なんとかかんとか、切除しました。切除後の組織診断では、ポリープは深く深く大腸の外へと広がっており、追加での外科切除(腸切除)が必要であることが判明しました。
夙川内視鏡内科まえだクリニックでの経験でも、この鋸歯状病変のポリープで、治療に難渋した挙句、大学病院へ紹介させていただいた患者さんがいました。幸運なことに、大学病院で再検査した時には、腫瘍はすでに前回の治療で消失していましたが・・。
大腸鋸歯状病変とは?
近年、注目されている大腸ポリープの一種です。大腸鋸歯状病変は、hyperplastic polyp(HP), traditional serrated adenoma(TSA), sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)というように3種類に分かれます。このうちTSAとSSA/Pはがん化する病変(1.5%~20%)と報告されており、治療が必要です。顕微鏡で見たポリープの性状、すなわち病理学上は分類がされていますが、内視鏡技術では最新の拡大内視鏡をもってしても、いささか判別が難しい状況です。当院で使用可能な、拡大観察である程度の見分けが可能とされていますが、実際のところなかなか難しい印象があります。このため当院では、大きめの病変や目立つ病変は積極的に内視鏡切除することとしています。
全く別のポリープであったりします
他院で「このポリープは切除しなくて大丈夫です」と診断されていた患者さんが、不安になって当院を受診されました。他院の内視鏡検査報告書を確認すると、「hyperplastic polyp(HP)」と記載されていました。
実際に当院で大腸内視鏡を行うと、HPとしてはやや丈が高く、HPの内視鏡所見としては違和感を覚えました。当院では当初から内視鏡切除を行いました。後日判明した組織診断結果では、HPではなく、カルチノイド腫瘍と判明しました。カルチノイド腫瘍は、大腸がんと似たような性質をもつ特殊な腫瘍で、他の部位へ転移することもあります。幸いにもこの患者さんのカルチノイド腫瘍は悪性度も低く、切除も治癒切除と判断され、経過観察が可能と判断されました。大腸鋸歯状病変は判断が難しいことから、注意が必要な病気の一つだと、改めて、痛感した経験となりました。
大腸鋸歯状病変の画像
当院で治療に難渋した、sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)です。盲腸、大腸の末端部に見つけた、淡いピンク色の5‐6㎜ほどの平坦なポリープです。大腸鋸歯状病変は目を凝らして観察しないと簡単に見過ごしてしまいます。この病変は、治療を試みましたが、硬く粘膜に張り付いていて、治療を断念しました。しかし、その後の大学病院での検査で腫瘍が消失していたことが判明し、ほっとした症例です。当院で行った治療で加えた焼灼熱で腫瘍が剥がれ落ちたものと思われます。