内視鏡の症例 逆流性食道炎
逆流性食道炎
朝起きた時、胸の熱い感覚を覚えることはありませんか?
または、喉のいがらっぽい感じがありませんか?
その症状は顔を洗ったり、朝食を摂ったりするうちに忘れてしまうかもしれません。
しかし、その症状は逆流性食道炎の可能性があります。
逆流性食道炎は、胃内視鏡で多く発見される病気のひとつです。また、胃内視鏡を受けて確認することが大事な病気です。その理由は、胃内視鏡を受診しないとご自身の状態が正確に把握できないからです。
逆流性食道炎症状の感じ方は個人差があります
典型的な症状は、胸焼けと呑酸(どんさん)です。胸焼けは、みぞおちから胸の真ん中あたりの熱い感覚を伴う不快感を言います。呑酸とは、喉のいがらっぽさや、口の中に苦味や酸味を感じる症状です。逆流性食道炎の典型的な内視鏡所見は、胃と食道の境界付近の潰瘍(粘膜の一部がなくなること)や粘膜の赤みです。潰瘍や赤みが大きくなればなるほど、重度の逆流性食道炎と判定されます。典型的な症状や内視鏡所見の患者さんは確かに多いのですが、なんら症状がないのに、内視鏡所見は重症と判定されることがあります。反対に、胸焼けや呑酸の症状は強いのに、胃内視鏡の所見は非常に軽い、という方もいます。
逆流性食道炎に関して大事なことは、胃内視鏡を積極的に受診し、胃内視鏡画像の説明を受け、ご自身の状態を確認することです。逆流性食道炎の特徴的な症状や、内視鏡所見があれば、それに基づいて主治医とともに、対処方法を考えることが重要です。
逆流性食道炎は、近年とても増えている病気です
これまで15000例以上の胃内視鏡を経験しておりますが、年々逆流性食道炎の患者さんが多くなっているように思えます。実際、我が国での逆流性食道炎の罹患率は20パーセントと報告されています。ちなみに、欧米では40パーセントと報告されています。逆流性食道炎が増加している理由として、欧米化したライフスタイルが考えられています。ご存知の通り、高脂肪食は肥満の原因となります。肥満は胃酸過多を助長します。日本人では食道裂孔ヘルニアが増加していることも原因と考えられます。食道裂孔ヘルニアとは、食道と胃の間の筋肉が緩んでしまった状態を言います。食道裂孔ヘルニアにより、胃酸は逆流しやすくなります。
その他、我が国でのピロリ菌感染率の低下が逆流性食道炎の増加に関連しているとの報告もあります。戦前には国民の80パーセントが罹患していたピロリ菌感染症が、衛星環境の改善や除菌治療の普及により、急速に減少しています(1980年代生まれで12パーセント)。逆流性食道炎が発生する原因は、ピロリ菌によって萎縮した胃粘膜が回復して、胃酸を再び盛んに分泌するようになったためと予想されます。
胃内視鏡画像の特徴
胃酸は強い酸性で、pH1.5ほどです。中性がpH7ですので、薄めた塩酸溶液という感じです。胃酸は胃から出ているわけですから、通常は胃粘膜を傷つけることはありません。胃潰瘍の時は別ですが・・。これが食道に逆流してくると食道粘膜を傷つけることになります。これが、逆流性食道炎です。
胃内視鏡での逆流性食道炎は、胃と食道の境界部分に確認されます。この境界部分の赤みや潰瘍(粘膜の一部がなくなること)が確認されると逆流性食道炎と診断されます。この赤みや潰瘍は、胃酸の逆流する通り道にできるものですので、線状につながって見えます。線状にできた赤みや潰瘍が融合して、より大きな赤みや潰瘍になると重度の逆流性食道炎と判定されます。逆流性食道炎の内視鏡所見は、国際分類である改訂ロサンゼルス分類に基づいて判定されます。この分類では、胃内視鏡でなんら変化を認めない、非びらん性の逆流性食道炎(NERD)が記載されています。胃内視鏡で何ら変化がなくても、逆流症状が強ければ、逆流性食道炎と診断することができる大きな拠り所となっています。
稀ではありますが、逆流性食道炎と紛らわしい病気として、好酸球性食道炎があげられます。全身のアレルギー反応を基盤とする病気ですが、組織生検法による確認が必要となることがあります。
逆流性食道炎が原因となる、食道がんも
逆流性食道炎の原因となる胃酸の逆流が持続し、慢性化すると、バレット食道となります。バレット食道とは、慢性的な胃酸逆流により、食道下部が正常食道粘膜から、本来あるはずのない胃粘膜へと置き換わった状態を呼びます。バレット食道は、バレット食道腺がんという、食道がんを発生させることがあります。欧米では代表的な食道がんは、バレット食道腺がんです。今のところ、日本での代表的な食道がんは食道扁平上皮がんと呼ばれ、アルコールや喫煙に関連するがんです。日本ではバレット食道腺がんはまだ稀ながんですが、逆流性食道炎の罹患率の上昇により、今後、増加することが懸念されています。欧米でのバレット食道がある患者さんは、バレット食道腺がんを発症するリスクが健常者の60倍との報告もあります。バレット食道を伴う逆流性食道炎の患者さんでは、6か月~1年ごとの胃内視鏡が推奨されます。
生活指導を含めた、逆流性食道炎の治療
胸やけや呑酸といった、逆流症状を緩和することが、現在のところ治療の主眼です。
胃酸逆流を起こしやすい生活習慣をただすこと、すなわち日常生活の修正が治療効果を示すことがあります。生活指導として、禁煙、肥満の場合は減量、就寝前の食事・アルコールを控えること、高脂肪食・過食を回避すること、をお勧めします。薬物治療では、酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB)の内服薬をお勧めすることがあります。逆流性食道炎では合併症として、バレット食道や炎症の持続により食道が細く固くなり、食物が通過しなくなる状態(食道狭窄)が起こることがあります。バルーン拡張、すなわち風船により食道を広げる治療を行うこともあります。
逆流症状の強い患者さんでは、仰向けに就寝すると症状がひどくなるため、眠るときでも上体を起こしていなければならない方がおられます。このような重い症状の患者さんへの治療として、近年我が国で開発された新しい内視鏡治療法、Anti-Reflux Mucosectomy(ARMS)が先進施設で行われています。今後、この治療方法はさらに普及すると予想されます。
まとめ
- ・逆流性食道炎の症状の感じ方は個人差があり、胃内視鏡でご自分の状態を確認することが重要です。
・逆流性食道炎の慢性化により、バレット食道が生じることがあり、食道がんの発生源となり得ます。
・逆流性食道炎の治療は、生活習慣の改善とともに、薬物治療が必要となることがあります。